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みやきさんの作品「お揃いの家 -over the rainbow」

人間くさいパリの来客


by みやき きょうこ (日本)

 私はまだまだ経験の浅いアーティストなのですが、機会あってパリで個 展をすることになりました。それまでヨーロッパに行ったこともなし、『地球の歩き方』も『フランス 語会話集』も持たずに、作品だけを大事に抱えて飛行機に乗り込みました。

 私の作品とは? 現代美術の中のインスタレーションと分類されるもの。現代美術は難解だと誤解されますが、より相互的なコミュニケーションを取るための手段の一つに過ぎないのです。作品を介して見える物事は、まるで虫眼鏡を通しているような感覚にもなります。

 個展を開いた期間、多くの方々と知り合うことが出来ました。アトリエやお宅に招待してくださった方もいました。そのなかで強烈に感じたことは、フランスの階級制度、それも含めて日本との美術教育の違いです。

 アートの盛んな国と言われるフランスでも美術の教育はとても特殊で、特に現代美術となるとごく限られた人々のためのものらしいのです。家庭環境や人脈によって裏打ちされた美術関係者が大半だという話。日本では全く考えられないことです。

 たしかにその通り、パリでの個展に来てくださったのは、アーティスト、評論家、コレクターのうちのどれかに当てはまる方ばかりでした。(日本の場合、趣味でギャラリー巡りをする人は結構多いのです。)ギャラリーによってはイチゲンさんお断りという雰囲気を出していたりもします。最初のうちはどうしても閉塞感、違和感を抱きました。

 しかし知り合った方々は気さくで、おしゃべり好き。私の作品に対しても多くの感想を言ってくださいました。個性それぞれですが、それまでいわれたことの無いような感想ばかりだったので、よく覚えています。

 共通点を一言で言えば、どれも泥臭く人間くさいいのです。対人間の視点というか、作品を通して私を見透かすようで、価値観や人生観、プライベートなことさえも想像して言い当てるので、占 い師でもあるまいしと驚くことたびたびでした。作家の意図するところや美術の文脈についても的確な意見で、これはさすが純粋培養、どの方も読み解く能力はすばらしく本質的でした。感覚的にも知識的にも。

 日本での個展で返ってくる反応にも特徴はあります。お行儀よく一つの入り口、美術のルールに則って意見を展開する方が多いようです。言葉の選び方も規定からはみ出すまいと慎重です。フランス人のように自由奔放に好き勝手な入り口から入ってくる方は稀ではないでしょうか。

 その国の気質だけでなく教育にも多く影響されるのでしょう。比較すれば日本の美術教育は、ただ表現することに重点を置いているせいかもしれませんね。小中学校の頃、美術の時間は大抵絵を描いたり工作したり鑑賞したり教科書を読んだり…。退屈ではなかったですか?

 フランス人は〜、日本人は〜と安易に比較するような話になってしまいましたが、最後にパリに住む日本人はというと…。

 何十年もパリに暮らしとけ込んでいても、感性は反射神経みたいなもの。私のお会いした方々は、はっきりと日本的でした。境界線が見える程に、鮮やかな反応の違いでした。興味深いものです。これはもう、どっちが優劣いうことではなく、分業なのだと思います。

 ただ作り手にとってみれば、最初から意図を質問されたりすることはガッカリするのです。一方的におしゃべりってそれで納得してくれたとしても、言葉上のやりとりは空しいだけですから。自由に考えてくれると、私の方でも言葉から想像が膨らむし、面白い。だから私も作品を見る時には、できるかぎり好き勝手にルールを無視してみようと心がけているのですが、これも結構難しいのですよ。リハビリ、ですね。

展示の内容はこちら
http://members2.jcom.home.ne.jp/miyaki.k/works.html
〈2005年12月〉